KJ-monasouken’s diary

昔「モナー総研」と言うスレ紹介ブログやってた人のブログ。いまはTwitterの活動がメイン。

村上春樹的みずほ銀行(プログラマー)

みずほも首脳陣が交代するらしいですね。

<みずほFG>3首脳が4月に交代 FG社長は塚本氏

みずほフィナンシャルグループ(FG)は16日、前田晃伸みずほFG社長(64)の後任に塚本隆史副社長(58)が昇格するトップ人事を発表した。傘下のみずほコーポレート銀行頭取には佐藤康博副頭取(56)、みずほ銀行頭取に西堀利副頭取(55)が昇格する。いずれも4月1日付。

 前田みずほFG社長と斎藤宏みずほコーポレート銀頭取(64)、杉山清次みずほ銀頭取(61)は、それぞれ会長に就任する。

 みずほグループの3首脳が一斉に交代するのは、02年4月のグループ発足以来初めて。前田社長と斎藤頭取は発足以来7年間にわたってトップを務めており、若返りを図る。杉山頭取は04年3月に就任したが、全国銀行協会会長の任期を今春で終えるのを機に退く。

みずほと言うと、統合前後の混乱を思い出すがなんだかんだ言ってよく持ちこたえてきたものだ。


ということで、モナー総研旧本家で最初に取り上げたスレッドでもあるこのスレを再掲。個人的には、今でも一番好きなスレッドである。

1 名前:仕様書無しさん 投稿日:02/04/18 22:39
「完璧な統合などといったものは存在しない。完璧な絶望が
存在しないようにね。


2 名前:仕様書無しさん 投稿日:02/04/18 22:39
僕が要件定義局面のころ偶然にも知り合ったPMは僕に向ってそう言った。
僕がその本当の意味を理解できたのは今年の4月1日のことだったが、
少くともそれをある種の慰めとしてとることも可能であった。
完璧な統合なんて存在しない、と。


しかし、それでもやはりリレーコンピュータで接続という
段になると、いつも絶望的な気分に襲われることになった。
一ベンダーに扱うことのできる領域はあまりにも限られたものだった
からだ。例えば富士銀行について何かが書けたとしても、
第一勧銀については何も触れないかもしれない。
そういうことだ。


2年間、みずほはそうしたジレンマを抱き続けた。---2年間。長い歳月だ。
もちろん、あらゆるものから何かを学ぼうとする姿勢を
持ち続ける限り、障害を起こすことはそれほどの苦痛では
ない。これは一般論だ。


4月を少し過ぎたばかりの頃からずっと、みずほはそういった
対応を取ろうと努めてきた。おかげで財務省から何度と
なく手痛い打撃を受け、欺かれ、誤解され、また同時に
多くの賠償請求な体験もした。様々な取引先がやってきてみずほに
語りかけ、まるで橋を渡るように音を立ててみずほの上を通り過ぎ、
そして二度と戻ってはこなかった。みずほはその間じっと口を
閉ざし、何も語らなかった。


そんな風にしてみずほは障害発生後最初の月を迎えた。


3 名前:仕様書無しさん 投稿日:02/04/18 22:47
今、僕は障害対応に出かけようと思う。
もちろん問題は何ひとつ解決してはいないし、作業を終えた時点でも
あるいは事態は全く同じということになるかもしれない。結局のところ、
要員増加を行うことは障害回復の手段ではなく、障害回復へのささやかな
試みにしか過ぎないからだ。


しかし、正直に状況を語ることはひどくむずかしい。
僕が正直に語ろうとすればするほど、みずほの信用度は闇の
奥深くへと沈み込んでいく。


弁解するつもりはない。少くとも公式コメントで語られていることは
現在のみずほにおけるベストだ。つけ加えることは何もない。
それでも僕はこんな風にも考えている。うまくいけばずっと
先に、何年か何十年か先に、復旧されたシステムを発見すること
ができるかもしれない、と。そしてその時、象は平原に還り
みずほ上層部はより醜い言葉で派閥争いを始めるだろう。


71 名前:仕様書無しさん[sage] 投稿日:02/04/29 21:13
「悪いけど、今ソースコードを書いてるんです。あとでかけなおして
くれませんか?」
ソースコード?」、女はあきれたような声を出した。「稼動の1週間前に
ソースコードを書いているの?」
「あなたには関係ないことでしょう。何日に何を書こうが僕の勝手だ」、
僕はちょっとむっとして言った。


「それはそうね」、女は表情のない乾いた声で言った。ちょっとした感情の
変化で声のトーンががらりとかわるのだ。「まあいいわ。あとでかけなおすから」
「ちょっと待って」、僕はあわてて言った。「どこかの電力会社だとしたら、
何度電話をかけてきたって無駄ですよ。こっちは開発中の身だし、テストを
している余裕なんてないから」


「知ってるから大丈夫よ」
「知ってるって何を」
「だからまだ開発中なんでしょう。知ってるわよ、そんなこと。だから早くあなたの
大事なソースコードを書いていれば」
「ねえ、あなたはいったい…」と言いかけたところで電話が切れた。すごく唐突な
切れ方だ。


75 名前:仕様書無しさん[sage] 投稿日:02/04/29 22:52
「みずほのATMは不思議な台でした。一見何の問題も無いように見える。
でもやってみると何かが違うんです。同じ画面、同じ操作手順なんです
が、他の機種とは何かが違う。その何かが麻薬のように人々をひきつけた。
・・・私が『みずほATM』を悲運の台と呼ぶには二つばかり理由があります。
第一にその危険性が人々に十全に理解されなかったこと。彼らがやっと
理解しはじめた頃はもう遅すぎた。第二に会社が倒産してしまったこと。
あまりにも非良心的にやりすぎたんですな。みずほはさるハゲタカファンド
に買収されました。本社はシステム部門は必要ないと言った。それまでです。」

僕は暗い気持のまま考え込んだ。

「ところで、あなたのみずほでのベスト残高は?」
「十六万五千。」と僕は言った。
「そりゃ少ない。」と彼は表情も変えずに言った。
「実に少ない。」そしてまた耳を掻いた。


104 名前:仕様書無しさん 投稿日:02/05/05 16:09
「予定が変更された」と聞き覚えのある声が言った。「システムの具合が急に悪く
なったんだ。もう余り時間がない。だから君のタイム・リミットも繰り上げられる」
「どれくらい」
「一ヶ月。それ以上は待てない。一ヶ月たっても二重引き落としがなくならなければ、
君はおしまいだ。君が戻るべき場所はもうどこにもない」
一ヶ月、と僕は頭の中で考えてみた。しかし僕の頭の中では時間の観念が取り返し
のつかないくらい混乱していた。一ヶ月でも二ヶ月でもたいした違いがないように思
えた。そもそも一行のバグを探し出すのに一般的にどれくらいの時間がかかるかという
基準がないのだから仕方がない。
「よくここの場所がわかりましたね」と僕は言ってみた。
「我々には大抵のことはわかる」と男は言った。
「バグの場所以外はね」と僕は言った。
「そういうことだ」と男は言った。


130 名前:みずほの終り 投稿日:02/05/25 20:30
ドアの外にはPGのための場所がある。PGたちは夜の間そこで眠る。手を洗うための
洗面所があって、その水を飲むこともできる。その向こうには見渡す限りの簡易ベッド
がつづいている。まるで海原のようにどこまでもつづいているのだ。


「まああんたはここに来たばかりだから仕方ないが、それでもしばらくここで暮らして
きちんとすりゃ、同僚になんて興味を持たなくなる。他のみんなとおなじようにな。
もっとも納期直前の一週間だけは別だがな。」


納期直前の一週間、PG達が戦う姿は誰も見たがらない、と守衛は言った。
PG達は納期直前の一週間だけ、いつもの温和な姿からは想像もできないほど
凶暴になり、互いを傷つけあうのである。そして床に流されたおびただしい量の
血の中から新しいプログラムと新しいシステムが生まれてくるのだ。


131 名前:ハードボイルド・ワンダーランド 投稿日:02/05/25 21:20
「いいですか、今リレーコンピュータ方式は完全に凍結されています。何故だかは
わかりません。たぶんなにかしらのトラブルが予想されるからでしょう。もしシステム
障害が起これば懲罰程度では済まないでしょう」


老人は依頼書類の入ったホルダーをまた私に差し出した。


「その最後のページをよく見て下さい。リレーコンピュータの使用許可がついてるはず
です」


たしかにそこにはリレーコンピュータの使用許可がついていた。全く上層部の人間が
何を考えているのか私には見当もつかない。穴を掘ったらそれを埋めろといい、埋め
たらまたそれを掘れと言う。迷惑するのはいつも私のような現場の人間なのだ。


132 名前:仕様書無しさん 投稿日:02/05/25 22:02
>>131
>全く上層部の人間が何を考えているのか私には見当もつかない。穴を掘ったら
>それを埋めろといい、埋め たらまたそれを掘れと言う。迷惑するのはいつも私
>のような現場の人間なのだ。

ここは一字一句原作どおりだと思うけど、まさにだめぽのためにあるような文章だなw


135 名前:仕様書無しさん 投稿日:02/05/26 11:56
「じゃあ教えてやる。バグはPGによってマシンルームの外へ運び出されるんだ。それが
かいだすということばの意味さ。PGはシステムのバグを吸収し回収し、それを外の世界に
持っていってしまう。そしてカットオーバーになるとそんなバグを体の中に貯め込んだまま
死んでいくんだ。彼らを殺すのはマシンルームの寒さでも吉牛の不足でもない。彼らを殺す
のはクライアントが押しつけた自我の重みなんだ。そして春が来ると新しいPGが生まれる。
死んだPGの数だけ新卒が生まれるんだ。そしてその新卒たちも成長すると掃き出された
クライアントの自我を背負って同じように死んでいくんだ。それが完全さの代償なんだ。
そんな完全さにどんな意味がある?弱い無力なものに何もかもを押しつけて保たれるような
完全さにさ?」
僕は何も言わず靴の先を眺めつづけていた。



136 名前:仕様書無しさん 投稿日:02/05/26 12:05
「システムはそんな風にして完全性の環の中を永久にまわりつづけているんだ。不完全な
部分を不完全な存在に押しつけ、そしてそのうわずみだけを吸って生きているんだ。それが
正しいことだと君は思うのかい?それが本当のシステムか?それがプロジェクトのあるべき
姿なのかい?いいかい、弱い不完全な方の立場からものを見るんだ。SEやPGや派遣の
人々の立場からね」
僕は目が痛くなるまで長いあいだモニターの光をじっと見つめていた。それから眼鏡を
とって目ににじんだ涙を手の甲で拭いた。
「明日の三時に来るよ」と僕は言った。「君の言うとおりだ。ここは僕がいるべき場所
じゃない」


137 名前:仕様書無しさん 投稿日:02/05/26 12:23
「どうしてPGたちは仕様の決定に参加しないんだろう?」と僕は訊いてみた。
「それはきまっていることなのよ。どうしてかは私にもわからないわ」とPMは言った。
「PGたちはクライアントが参加する会議には決して出席しないの。もちろん私たちが指示
すれば出ることはあるけれど、そうでない限りは出ないの」
マシンルームでは何人かのPGたちが背骨を折り畳むようにして身をかがめ、机の仕様書を
読んでいた。我々がすぐそばを通りすぎても、彼らは顔ひとつあげずに仕様書を読みつづけ
ていた。モニターの画面には彼らの白い顔がくっきりと映っていたが、それはまるで水底に
落ちた白い骨のように見えた。


165 名前:仕様書無しさん[] 投稿日:02/06/04 01:28
「だから祖父を許してあげてね」と娘が言った。

「僕が許しても許さなくても、そんなことは君のおじいさんにとってはきっと
 関係ないと思うよ」と私は答えた。
「でもどうして君のおじいさんは途中で統合プロジェクトを放りだしたりしたんだろう?
 それほど責任を感じているんならこれ以上犠牲が出ないように
 もっとデバッグやテストを進めるべきじゃないのかな?
 いくら大組織の中で働くのが嫌だといっても
 デスマーチで人がばたばた死んでいるんだからね」


「祖父は『赤みずぽ』そのものを信用できなくなったのよ」と娘は言った。
「Dの『赤みずぽ』とFの『青みずぽ』は同じ人間の右手と左手だと祖父はいっていたわ」


「どういうこと?」


「つまり『赤みずぽ』と『青みずぽ』を統合することは技術的には殆ど不可能なのよ」


「技術的にはね。
 でもとりあえずリレーコンピュータでつなぐだけなんだ。きっとうまくいくはずだ」


「でもね、もし」と娘は言った。
「『赤みずぽ』と『青みずぽ』が旧3行の多数決で操られていたとしたらどう?
 つまり2行より3行のほうが多数決で迅速に決断できるんだとか屁理屈をこねて」


私は彼女の言ったことについて考えをめぐらせてみた。
信じられない話だが、まったくありえないことではなかった。
「もし君の言うとおりだとしたら、ひどく難しいプロジェクトになるだろうね」
と私は言った。
「両方を競りあわせることによって、決断をいくらでも遅らせることができる。
 力を伯仲させておけば上層部は責任を取らされる心配もない」


「祖父はみずぽの中でプロジェクトを進めているうちにそのことに気づいたのよ。
結局のところみずぽはシステムの重要性を軽視した銀行にすぎないのよ。
祖父はもしこのままプロジェクトをつづけたら事態はもっとひどいことになるだろうと
予測したの。勘定系や元帳データはむちゃくちゃになってしまうだろうってね。
そこには抑制と歯止めがなくちゃいけないのよ。
でも『赤みずぽ』にも『青みずぽ』にもそれはないわ。
だから祖父は統合プロジェクトを降りたの。」


167 名前:仕様書無しさん[ハードボイルドワンダーランド(上)P268〜P272] 投稿日:02/06/07 21:30
金融庁の連中が3人やってきたのは3日後だった。一人はいつも私のところに来て
検査していく生意気なキャリア組の若い男だった。
「本当に実害はないんですね?」その若いキャリア官僚が抑揚のない声で言った。


「これはとても重要なことだからよく思い出してください。あとで訂正はききません
からね。電力会社は何の根拠も無く無駄な行動はとらない。彼らがあなたのシステム
について事前にテストをしようとしたなら、それはあなたのシステムにバグがある
と言う根拠があったからです。あなたがバグについて何の認識もなかったとは考え
られないんですがね」
「そんなに頭がいいんなら、そのバグの修正方法を教えてくれないかな?」


キャリア官僚はしばらくシャープ・ペンシルの先でこんこんと手帳のかどを叩いていた。
「修正方法はともかく、過去の事実関係についてはこれから調べ上げますよ。徹底的に
調べる。我々が真剣にやれば大抵のことはわかるんです。そしてもしあなたが何かを
隠していたことが判明すれば、これは厄介なことになりますよ。我々には国家がついて
います。というより我々が国家です。我々にできないことはないのです」


169 名前:仕様書無しさん[世界の終わり(下)P255〜P257] 投稿日:02/06/08 00:43
私の振替依頼は一つにまとまって吸い込まれているわけじゃないのよ。私の
依頼電文はばらばらになって、いろんなサーバの中に吸い込まれ、その断片は他の
人の断片と一緒に見分けがつかないくらい複雑に絡み合っているのよ。古い振替依頼
とはそういうものなの。誰にもそれを解きほぐすことはできないの。混沌は混沌の
ままで消えていくのよ」


彼女の言っていることはよく分かった。そして今僕に残された時間は二十一時間しか
ない。僕はその二十一時間の間になんとか彼女の口座に辿りつかなければならないのだ。


「私の依頼電文が本当に読めると思うの?」
「僕には君の依頼電文を読むことができると思う」
「どんな風にして?」
「それはまだ分からない。でもきっとできる。僕には分かるんだ。きっとうまい方法が
ある。そして僕はそれをみつける」




「私の依頼を見つけて」しばらく後で彼女はそういった。


174 名前:仕様書無しさん[世界の終わり(下)P344〜P346sage] 投稿日:02/06/08 13:15
「どうしてだ?君はこの間この世界から脱出するって約束したじゃないか?一体何が
君の心をそれほどがらりと変えてしまったんだ。女かい?」
「それももちろんある。でもそれだけじゃない」
PGはため息をついた。そしてもう一度空を仰いだ。


「君は彼女の振替依頼を修正したんだな?そして彼女とふたりでみずほで暮らすこと
に決め、俺を追い払うつもりなんだろう?」


「もう一度いうけど、それだけじゃないんだ」と僕は言った。
「僕はこのシステム障害を生み出したのが一体何ものかということを発見したんだ。
君はシステム障害を作り出したのが何ものか知りたくないのか?」


「知りたくないね。俺は既にそれを知っているからだ。このシステム障害を作り出した
のは、みずほ自身だ。三つの勘定系システムからリレーコンピュータから、非現実的な
作業スケジュールから、何から何までだ。このエラーログも、このバグもだ。
それくらいのことは俺だってわかるんだよ。」


「僕には僕の責任があるんだ。僕は上司から勝手に振られた仕事とはいえ、自分の
作り出したシステムやプログラムをあとに放り出していってしまう訳にはいかない
んだ。君の考え方は正しいと思うし、君と別れるのはつらい。でもここは僕自身が
住む世界なんだ。プログラムは僕自身の思考の流れのプログラムで、システムは
僕自身が作り上げたシステムなんだ」


「止めても無駄なことはよくわかった」とPGは言った。「しかしPGとしての生活は
君が考えているよりずっと大変なものだよ。生き延びるための勉強は厳しいし、デス
マーチは長くつらい。無能な上層部の下につくとなかなかそこから逃れられない。延々と
実りのない作業を繰り返さなければならないんだよ」
「そのこともよく考えたんだ」
「しかし心は変わらないんだね?」


このスレの影響もあって、村上春樹作品の中では「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」が一番好きだ。
あとは、小説じゃないけど「アンダーグラウンド」とかかな。