KJ-monasouken’s diary

昔「モナー総研」と言うスレ紹介ブログやってた人のブログ。いまはTwitterの活動がメイン。

緊急事態宣言の延長について

緊急事態宣言の延長自体は特にサプライズのない話なのだが、首相記者会見もあったことだし、改めて状況を整理しようかと。

首相の記者会見全文は、いつもの通り産経新聞のサイトに載っています→リンク

 「緊急事態を宣言した4月上旬。1カ月後の未来について、欧米のような感染爆発が起こるのではないか、そうした悲観的な予想もありました。しかし、国民の皆さんの行動は私たちの未来を確実に変えつつあります。わが国では緊急事態を宣言しても欧米のような罰則を伴う強制的な外出規制などはできません。それでも、感染の拡大を回避し、減少へと転じさせることができました。これは、国民の皆さまお1人お1人が強い意志を持って可能な限りの努力を重ねてくださった。その成果であります。協力してくださったすべての国民の皆さまに、心から感謝を申し上げます。その一方で、こうした努力をもうしばらくの間、続けていかなければならないことを、皆さんに率直にお伝えしなければなりません」

なんか、もう忘れている人も多いみたいですけど、4月上旬の時点では緊急事態宣言が遅い遅いといわれてたし、欧米のような感染爆発が起こるような事態も現実的な可能性はあったわけですね。喉元過ぎればみたいな感じで、悲観的なシミュレーションの数字を出した専門家をたたいたりする向きがいるのはちょっと、、、、

1人でも多くの命を救うためには医療支援をさらに重症者治療に集中していく必要があります。1日当たりの新規感染者をもっと減らさなければなりません。このところ全国で毎日100人を超える方々が退院など回復しておられますが、その数字を下回るレベルまで、さらに新規感染者を減らしていく必要があります。

つまり、退院数を安定的に新規感染者が下回るレベルまで持っていければ、医療崩壊も起こらず、収束に向かうため、そこが潜在的な目標ということになるのでしょう。

--緊急事態宣言を延長した政治の責任をどう考えるか。雇用調整助成金の引き上げなど既存の対策に加え、より雇われる側の立場に立った対策を検討する考えはあるか。国民1人当たり一律10万円の現金給付について、追加で行うか

 「まず、当初予定をしておりました緊急事態宣言について、1カ月で収束する、終えるということを目指しておりましたが残念ながら、1カ月延長するに至ったこと。内閣総理大臣として責任を痛感しております。それを実践できなかったことについて改めておわびを申し上げたいと思います。その上でこの5月は、現在の流行を収束させること、そして、次なる流行に備えるその1カ月である。その備えを万全に固めていくための1カ月であると考えています。私自身、その目標に向かって、目的に向かって先頭に立って努力をしていく考えであります」

 「そして今回の延長によって、まさに大変厳しい状況にある事業者の方々にはさらなるご苦労を強いることになります。まずは、先般成立をした(令和2年度)補正予算を直ちに執行に移して総力を挙げて、速やかに支援をお手元にお届けをしたいと思います」

「安倍首相は謝らない、責任逃れをする」というレッテル貼りが好きな人々はいるものだが、果たしてそうだろうか?給付金の決定にかかる混乱についても、率直に自分の責任である、と述べていたような記憶があるが。それはさておき、経済政策にかかる言及がこれだけなのは大変に気がかりだ。緊急事態宣言解除までの時間が当初想定よりかかるというのなら、早急に第2次補正予算と経済対策の議論に入らないとまずいのではないか。

あと、マスコミは相変わらずPCR検査の件数にこだわっているらしく、2回も質問があった。

これについては、首相もある程度直接回答しているが、専門性の高い事柄については、尾身先生が回答している。

「よく一般の方でPCR検査が日本で比較的少ないので、感染の実態を十分つかんでないのじゃないかということですが、実はこれ今日、私ども専門家会議はこれから記者会見をしますが、そのときに詳しく申し上げようと思っています。歴史的にみて、確かに日本はPCRのキャパシティを上げるということが他の国に比べて遅れた。それはさまざまな理由があります」

「もともと、あまり衛生研究所とか国立衛生研究所は感染法の中で、行政の検査をやるということで一つありますね。それから、日本の場合には幸いなことに、SARS(重症急性呼吸器症候群)、MARS(中東呼吸器症候群)がなかったために少しやっぱりこのPCR体制というものを送るということが、そういう経過があってなかったと思います。しかし、そういう中で実は当初はですね、PCR検査を重症化を防ぐために、限られたキャパシティを集中せざるを得ないという、これは事実でございました。しかし、だんだんと感染者が増えて、死亡者も増えるっていう中で、もう2月の20日頃から、大学とか他の医療機関に試薬を送るとか、検査をする。それから3月6日にはPCRの保険適用が、そういうことがさまざまにやりましたけど、実は、なかなかうまく思ったほどのスピードで上がらなかったのは事実です」

 「その理由はいろいろありまして、だいたい6つぐらいありますが、保健所の業務の過多とか、それから入院先をしっかり示すその仕組みはない。それから、PCR検査を地方衛生研究所のリソースがこれ極めて少ない。人員のカットなんかもありますし、そういうことがあった。それから、検体採集および実施者がするマスクや防護服それから一般医療機関都道府県との契約をしないと検査できないという今までの仕組みがあった。それから、検体を取ったあと運ぶということにさまざまな障害がありました。そういうことでありまして、なかなか他の国よりは確かに少なかった。しかしそれと同時にですね、死亡者という、重症化で本当に肺炎で亡くなったような人についてはもちろん、最近、報道で残念なことに路上で亡くなって、後でPCRでわかったっていう人がおりますけど、基本的には日本の医療体制というのは、肺炎を起こしたような、日本の場合は肺炎のサーベイランスをやってきましたから、肺炎を起こすような人はほとんどがCT検査とかやられて、その多くはPCR検査をやられてきて、そういう意味では死亡者のようなものは、だいたい正しい件数がピックアップされていると思います

ここで挙げられているいくつかのボトルネックのうち、都道府県との契約の話はルール変更すれば何とかなりそうだが、マスクや防護服には生産に時間がかかりそうだし、保健所や地方衛生研究所の人的リソースに至ってはさらに時間がかかる話だろう。つまり、これは今回のコロナ以前から問題になっていた医療現場のキャパの問題であり、すぐにどうこうできる話ではなく、当初は現有のリソースで対応せざるを得なかったことがうかがえる。

後半のCT検査の話は、以前の記者会見で安倍首相自身が語った内容と一致しており、このことについて安倍首相は専門家とのコミュニケーションに齟齬がないことが分かる。

例えば、先ほどテレビニュースで「専門家会議でPCR検査が少なく、さらに増やしていく必要があるとの認識が示された」ということだけが切り取り報道されていたが、これなどは「政府と専門家の意思疎通がうまくいっておらず、不満を示した」という絵にしたいのだろうな、というマスコミの悪意を感じる。

PCR検査については、尾身先生の回答にもある通り、専門家会議資料に詳細な分析が掲載されている→リンク

PCR 等検査数、検査陽性率の各国比較をみると、検査の定義や対象者が国により異なるため、単純な比較はできないものの、日本の 10 万人あたりの PCR 等検査数は、他国と比較して明らかに少ない状況にある(図 1)一方、検査陽性率はイタリア、シンガポールアメリカ、スペイン、フランス、イギリスよりも十分に低くなっている(図 2)。したがって、これらの国々と比較して、潜在的な感染者をより捕捉できていないというわけではない、と考えられる。

図2を見ると、陽性率で日本を下回るのは韓国のみで、ドイツとほぼ同等、ほかの国は明らかに日本より高い。つまり、「広く検査している」とされているはずの欧米諸国の方が、感染者以外まで検査を広げられていないことになり、検査数に差があるといっても、感染者自体が少ないと考えてもそれほど不備はないように思える。韓国が優れているのは確かだろうが、一部マスコミのいうような検査が足りないような状況ではない。

また、P17~P18を見ればわかる通り、民間を通じた検査もやっているし、検査件数自体も格段に増加している。また、今のところ特効薬があるわけでもないし、検査の精度が100%とも言えない現状では、いたずらに検査件数を増やすことはデメリットの方が大きい。

以上のことは、ネットではかなり以前から議論されていたことだが、マスコミの情報が全くアップデートされていないと感じる。

「韓国を見習わないのは、安倍首相が反韓イデオロギーに縛られているからだ」というバカバカしい議論が、いわゆる知識人やジャーナリストとされる人からなされているのだが、本当にあきれるほかはない。

上記を見ればわかる通り、韓国が欧米諸国と比較しても優れているということであり、それは韓国が準戦時体制で、防疫体制に対するテンションが高いことと、2015年にMERSコロナウイルスによるアウトブレイクの経験を経ていることと無縁ではないだろう。また、日本でPCR検査件数が少ないことは、CT検査などで補完する仕組みがあること、人的リソースがパンデミックに対応できるレベルではなかったことであって、政府の方針で決められたことというわけでもないし、ましてや安倍首相の個人的な心情に左右されるような事象ではない。

そして、これらの事情はすでに政府とも共有されており、その状況を踏まえて拡充がなされているのが現状である。それに対して早いの遅いの意見があるのは当然だが、マスコミが正しい情報を伝えることを放棄し、くだらない政局ネタやワイドショーネタを提供することに熱心に見えるのは、まことに嘆かわしい。